2025年度後期 経済情報研究科修了発表会を開催しました

公開日 2026年03月24日

開催日時:2026年3月17日(火)10:00~12:05

 今年度後期修了者3名の修了発表会をオンラインで開催しました。教職員および大学院生が併せて13名ほど出席しました。修了者による30分ずつの発表ののち指導教員による補足説明が加えられ、その後は質疑応答に移りました。以下に掲げた発表要旨にあります通り、画像解析をもとに地域特性を割り出す情報系の研究から、税法にまつわる問題を歴史帰納的かつ論理演繹的に剔抉する経営系の研究まで、非常に専門性の高い内容が並ぶなか、経済系の教員からも持てる知見を活かした質問が発せられ、経済・経営・情報の三系統が集う本研究科の特性が充分に発揮された機会となったように思われます。

 

当日の演題および発表者の言葉(発表順)

演題①:SNS投稿写真を活用した都市観光分析のための特徴化手法

発表者:劉 哲麟

 世界的なCOVID-19パンデミックの影響により、観光産業は大きな打撃を受け、観光地経営においてはデータに基づく戦略立案の重要性が高まっている。特にSNSは観光客の視覚的体験を反映する非構造化データとして有用であり、従来の調査では捉えにくい観光地の特性を明らかにする可能性を有する。本研究は、Instagram等に投稿された写真データを活用し、都市ごとの観光特性を定量的に記述・比較する手法を提案する。
 本研究では、観光特性を「写真主題の構成比率」として定義し、それをベクトル化する方法を採用した。日本国内の観光都市を対象にSNS画像を収集し、「食べ物」「自然」「建物」「人物」「文字」など10カテゴリに分類した。分類には約7万枚のラベル付き画像で学習した深層学習モデルを用い、各都市の画像を自動分類・集計することで、「観光傾向ベクトル」を構築した。
 14都市を対象とした分析では、仙台の「食べ物」、福山の「人物」、屋久島の「自然」など、都市ごとの特徴が明確に可視化された。さらに主成分分析(PCA)および多次元尺度法(MDS)とコサイン類似度を用いた分析により、大阪と名古屋、福岡と仙台など、大都市間での観光特性の類似性が確認された一方、屋久島は他都市と対照的な構造を示した。
 また、「人物」「文字」「その他」といったノイズ要素を除外した再分析により、特徴量の精度を向上させた。その結果、PCAでは京都・尾道・広島が建築物を軸に同一群となったのに対し、MDSでは京都・尾道・箱根が類似クラスタを形成し、アルゴリズムの違いによる解釈の差異が明らかとなった。
 最終的に、14都市は「都会美食型」「歴史景観型」「大自然特化型」「テーマ・体験型」「多面複合型」の5類型に分類された。本研究はSNS画像を用いて観光特性を定量化する手法を示し、観光地のブランディングや戦略策定に有用な知見を提供する。今後は時系列分析や分類精度の向上により、さらなる発展が期待される。

 修士論文の発表を終え、これまでの学生生活に一区切りを感じています。本研究では、SNSに投稿された観光画像を用いて都市ごとの観光特性を定量的に分析しました。データの収集からモデル構築、分析に至るまで多くの試行錯誤を重ねる中で、課題を論理的に整理し、結果を導く力を養うことができました。ご指導いただいた先生方や支えてくれた方々に深く感謝するとともに、本研究で得た知識と経験を今後の社会人生活に活かしていきたいと考えています。

 

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演題②:過大役員給与の損金不算入規定に関する一考察-職務執行の対価性と予測可能性および恣意性の排除に着目して-

発表者:天野 裕陸

 法人税法34条2項は、役員に支給する給与のうち不相当に高額な部分の金額については損金不算入とする規定を設けている。不相当に高額の判断については、法人税法施行令70条1号が定める実質基準と形式基準によって行われる。実質基準については不確定概念の最たるものとされており、法制度論としての批判や課税実務上の問題点が数多く指摘されている。そこで、本稿では特に実質基準に着目して法人税法34条2項の課税のあり方について検討を試みた。
 第1章では制度の変遷、趣旨等を整理した。実質基準は当初、同族会社等の行為計算否認を目的とした通達を起源としたが、その後の法令化により非同族会社も対象となった。規定の趣旨は一貫して恣意性の排除にあるが、法令化後は職務執行の対価としての相当性がより重要視されている。第2章では、実質基準における不確定概念と予測可能性について考察した。課税要件明確主義の観点からは不確定概念の使用は慎重であるべきだが、公平負担の要請から不可避とされる側面もある。現状の実質基準は、類似法人とのデータ比較に重きを置いているが、納税者がそのデータを入手することは困難であり、予測可能性が著しく低い。第3章では裁判例を考察した。裁判所は、恣意性を排除するため予測可能性よりも客観性を優先しているが、個別事情や経営能力を十分に反映できず、対価性の判断指標として不十分である。第4章では改善策を提案した。第一に、実質基準の射程を限定し、上場企業を適用対象外とすること。第二に、国税庁が役員給与のボーダーラインを公表し予測可能性を確保すること。第三に、ボーダーラインを超える場合は納税者が根拠資料を提示し、課税庁も対応するデータを提示する責任を負う制度、あるいは事前審査制度の導入である。なお、特殊事情を裏付ける資料の具体的内容や、裁判所が判断する場合の予測可能性の確保については引き続き今後の研究課題としたい。

 修了発表会を終え、学生生活に一区切りがつきました。修士論文では法人税法における過大役員給与を研究し、租税が厳格な「法律」であることを再認識するとともに、私自身の租税観も大きく変化しました。執筆にあたり熱心にご指導くださった前田先生、並びに支えてくださった諸先生方に深く感謝申し上げます。ここで得た新たな視点を今後の専門的な歩みに活かしていきたいと考えています。

 

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演題③:交際費課税制度における交際費等の範囲についての一考察-目的論的解釈を用いた交際費等の範囲に着目して-

発表者:堀 松喜

 交際費等の該当性要件の範囲を検討するうえで、まず、租税特別措置法で規定されている交際費等の条文を文理解釈する必要があります。また、文理解釈から交際費等の範囲が不明確である場合は、目的論的解釈を検討する必要があります。私はこのような観点から交際費等の該当性要件の範囲を検討しました。
 会計上、交際費は原価又は費用になり、法人税法でも、交際費は損金の額に算入されます。しかし、租税特別措置法で規定されている交際費等に該当した場合には、原則として損金の額に算入されないことになります。しかし、交際費等を規定した条文では「その他の費用」「その他事業に関係のある者等」「その他これらに類する行為」などの文言が用いられていることもあり、文理解釈からはその範囲を明確にすることはできませんでした。
 そこで、交際費課税制度の立法趣旨、目的に照らした目的論的解釈を通じて、交際費等の範囲を明確にすることができるかを検討しましたが、その趣旨、目的は変化しており、明確にすることはできませんでした。また、実際の裁判事例を確認し、交際費等の範囲が目的論的解釈から明確になっているかを確認しましたが、その範囲を判断する基準を明確にすることは難しかったです。
 最後に、交際費等から除かれる福利厚生費の範囲についても検討しましたが、条文では「通常要する費用」の文言が用いられており、文理解釈や目的論的解釈からその範囲を明確にすることは難しかったです。
 研究を通じて、交際費等の範囲を明確にすることは難しいことが分かりました。政策的に交際費を規制する必要があるとすれば、現在の租税特別措置法で規定されている交際費課税制度はいったん廃止し、交際費等の範囲について、政策趣旨に沿った明確な認定基準を明記した法令が改めて制定される必要があるのではないかとの結論に至りました。

 論文発表では、分かりやすく伝えることが難しかったです。必要な資料を作成したり、話す内容を考えたりすることは大変苦労しましたが、前田先生にサポート頂き無事終えることができました。また、他の発表を聞くことで、自身に足りない部分が明らかになったこともよかったです。
 最後に、研究がなかなか進まなかった時も長時間ご指導頂いた前田先生や論文の書き方のアドバイスをたくさん頂いた津村先生、王先生に改めて感謝いたします。

堀 松喜_01 堀 松喜_02

 

以上、ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。